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サザエさんの赤ちゃん誕生

1960年、宝塚映画、長谷川町子原作、笠原良三+蓮池義雄脚本、青柳信雄監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

乳母車を押した奥さんに、カツオ(白田肇)が近づき「赤ん坊って、変な顔してるな〜」といているのを聞いたフネ(清川虹子)、家から出てきて、「すみません、この子は礼儀を知らなくて」と謝るが、乳母車の中に入っていたのは犬の子供だった。

サザエさん(江利チエミ)の出産は、ちょうど美智子妃殿下のお子さまと同じ頃になりそうだと言う話になると、ワカメ(猿若久美恵)が急に「恩赦があるのでは?」という話をし始める。
何の事はない。フネの大切にしていた小じわ取り用のホルモン剤をこぼしてしまったので、それを怒られないようにいっていたのだ。

波平(藤原釜足)もフネも、サザエさんの出産が待ち遠しくて仕方がなく、多胡家に美容院から電話があったと知らせを受けた二人は、「病院から」と聞き違え、さっそく、出かける支度をするが、実は美容院へフネが無断拝借して持っていった波平の老眼鏡を忘れて来ただけだった。

フネは、波平の丹前に外套を羽織った慌てた支度姿を笑うが、波平も、老眼鏡を使うようになったと言う事は、お前もお婆さんになったと言う事だとやり返す。

その頃、病院では、出産間近のサザエさんのために、マスオ(小泉博)がモナリザの複製画を胎教にために飾っていた。

胎教のためだったら、美人の写真があると言う看護婦(若水ヤエ子)、サザエさんに雑誌に乗っている原節子の写真を見せるが、その裏には花菱アチャコの写真が載っていたので幻滅。

隣の部屋で生まれたばかりの女児を抱いた夫、海老名(立原博)は、その子が可愛くて仕方がなく、サザエさんの病室までやって来てしつこく自慢しまくる始末。

一方、会社では、同僚ら(由利徹、南利明、八波むと志)が、さかんに生まれてくる赤ん坊の名前の話に熱中している。

女の子だったら、いづみやチエミなど 「み」の付く名前には良いのが多いから、「サシミ」はどうかなどといいだす始末。

そんな会社にまで乗り込んできた仲人の山中さん(柳家金語楼)まで、姓名判断から判断して「たまえ」という名前が間違いないなどと勧めるが、その時たまたま、喫茶店の隣の席にいたおじいさん(森川信)が呼んだ、しわくちゃババア(沢村いき雄)の名前も「たまえ」だったのには、話を聞いていたマスオも白け顔。

フネはといえば、病院に見舞ったサザエさんが麻酔をかけた無痛分娩で出産する話を聞き、自分の考えと違うのでちょっと納得いかず、口論になる。

さらに、サザエさんの食事を持って来た看護婦になだめられてとなるが、今度はその食事内容について、またまた二人の言い争いが始まったその時、サザエさんの陣痛が始まる。

知らせを受け、他人のスプリンブコートを着込んだ姿で駆けつけて来た波平も、2時間も分娩室から出て来ないと言うフネの話を聞いて心配顔。

しかし、ほどなく男の子出産。

ベッドに寝かされて出て来たサザエさんに、波平はでかした!と誉めたたえるが、サザエさんは、マスオの姿がないのに気づく。全員、陣痛が始まった連絡をしてなかったのだ。

会社で電話を受けたマスオは赤ん坊に異常はなかったかと尋ねるが、フネの「安心おし。ちゃんと鼻が2つで、目が一つ…」という言い間違いで目を回してしまう。

こうして、無事誕生した赤ちゃんの名前を決めるに当り、あまりにもいろんな人からたくさん候補が上がったので、くじ引きにしてはどうかと言う事になり、結局、カツオが引き当てた名前は「タラオ」だった。

それは、マスオとサザエが考えていた名前で、万事目出たし…となったが、ワカメとカツオが、他のクジを開いてみると、みんな「タラオ」と書いてあり、つまりは、最初からマスオの考えは決まっていたと言う事が分かる。

後日、入院中からサザエさんの社宅の留守番をしていたマスオの妹タイ子(白川由美)の友人だという、いり子(柳川慶子)がオシメを作ってやってくる。

さらに、タイ子と付き合っている医者の卵辰野(江原達怡)までやって来て、一方的にタラオの主治医をやらせてくれと頼みに来る。タイ子に良い所を見せたいらしい。

しかし、その辰野に、たまたま家にやって来た押し売りの相手を頼むと、追い返すどころか、おむつカバーを買わされてしまう有り様。

そんなフグ田家に赤ん坊を見たいと、フネ、多胡婦人(一の宮あつ子)や近所の子供達、さらには、御用聞きの面々(芦屋雁之助、芦屋小雁、茶川一郎)までやって来たので、辰野の言葉に従い、全員、手を消毒するやら大騒ぎと相成る。

夜は、タラオの音感教育のためにと、ベートーベンの「運命」のレコードを聞かせようとするサザエさんだったが、タラオは大泣きするだけ。

そんなタラオと添い寝するサザエさんの所に帰って来たマスオさんは、最近ちっとも、自分にかまってくれなくなったと怒り出すのだった。

ある日、タラオを乳母車に乗せて、カツオ、ワカメらと散歩に出ていたサザエさんは、偶然いり子に出会い、連れの、自分の先生だと言う岸本岩雄(有島一郎)なる画家を紹介される。

その岸本から、絵のインスピレーションが湧いたので、ぜひモデルになって欲しいと頼まれたサザエさんは、しぶしぶ承知するが、その時、ワカメらが、タラオの人形を犬に取られたと言いに来る。

それを取りかえそうと、その犬が飼われた家を訪問するのだが、出てきたのは外国人女性(リンダ・ビーチ)、なかなか言葉が通じないので、適当にごまかして逃げ帰るサザエさんであった。

さらに、岸本のモデルも色々ポーズをとってみるがどれも巧く行かず、あげくの果てに、出来上がった絵を見せてもらうと、チンプンカンプンの抽象画になっており、呆れ返ったサザエさんは、くたくたになって帰宅するが、そこには、北海道からやってきた義母(梅野公子)とマスオらが帰りを待ちかねていた。

かねてより、辰野からタイ子に自分の良い所を見せたいと相談されていたサザエさんは、この時ばかりと、タラオの容態を案ずる義母とタイ子の目の前で辰野に診断させてみるが、調子に乗った辰野があれこれ知った病気の名前を並べ挙げたものだから、義母は卒倒してしまう。

そんな義母を注射で気づかせた辰野は、芝居をしていたのだと証し、実はタイ子と結婚したいのだと申込むのだった。

一方、赤ん坊にサザエさんを取られてしまったようで面白くないマスオは、その後も家で喧嘩をしてしまうが、実家でフネから諭されたサザエさんは、今度の休暇に、二人きりで旅行へ行かないかと会社のマスオに電話することになる。

こうして、久々に二人きり水入らずの旅行に出かけたサザエさんとマスオであったが、たまたま登った山の上のベンチに置き去りに去れている赤ん坊を発見、思わず捨て子だと連れて行きそうになるが、それは、記念写真を取ろうとして足を滑らせた若い亭主(柳沢真一)と、それを助けに降りていた若妻(峯京子)の赤ん坊だった。

さらに、タラオの事が心配になったサザエさんは、旅館に着くなり、東京の多胡婦人の家に電話をかけてみるが、先ほどから、タラオを連れたワカメの姿が見つからなくなり大騒ぎしていると言う。

驚いた二人は、すぐさま、帰宅するが、そこには、何ごともなくくつろぐ、磯野家の面々がいた。

ワカメは、泣くタラオをあやそうと、一時押入に入っていただけだと言う。

安心するサザエさん夫婦だったが、今後は二度とタラオを置いて行かないと誓いあうのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

江利チエミ主演のシリーズ第8作

いよいよ、タラちゃん誕生編である。

ちょうど、美智子妃殿下の御出産と時期的に重なっていたようで、この前後のエピソードには、良くその話題が登場している。

つまり、実写映画版のタラちゃんは、現在の皇太子殿下と同じ年と言う事が分かる。

さらにこの当時の病院での出産は、麻酔による無痛分娩が一般的だったらしき事や、タラオの名前の付け方の裏話とか、色々興味深いエピソードが折り込まれている。

後半は、マスオさんの赤ちゃんノイローゼを中心に、微笑ましい夫婦喧嘩の顛末が描かれて行く。

映画版のサザエさんの魅力は、若い娘が恋をして、結婚し、出産し、育児…という、一番ドラマチックな時期を中心に描かれている事で、観客は、老若男女を問わず、サザエさん一家の一番幸せな時代を目撃する事になる。

この時期の江利チエミも本当に若くて生き生きとしており、かわいらしくて憎めない。

ちょうど、初期の007映画シリーズが、原作ブームからショーン・コネリー人気へと移行させ、映画独自の展開になって行ったように、このサザエさんシリーズも、もはや原作人気とは独立した、江利チエミ映画ともいうべき独特の世界を作り上げている。

単なるドタバタコメディの域を超えた、結婚前後の若い女性特有の喜び、不安や寂しさまで、痛いほど画面から伝わってくるのがすごい。

彼女が劇中で哀しむと、観ているこちらまで哀しくなり、彼女が喜ぶとこちらも嬉しくなるのだ。

これほど愛すべきキャラクターは、日本映画の中でもなかなかいないのではないだろうか。

ゲスト出演している有島一郎扮する奇妙な画家役も、なかなか素頓狂で愉快。

冒頭、波平の禿頭をからかうカツオが「月の裏側発見!」などと行っている所に、当時の宇宙時代到来を感じさせる。

これまでサザエさんの空想シーン等で、江利チエミと踊る事はあっても、唄う事はなかったマスオさんこと小泉博が、この回はじめて歌を披露している所にも注目したい。